一人ぼっちの誕生日

あまりにショックで、こともあろうに会社をしばらく休んでしまい
ました。

そしてマンションのご近所さんの知るところとなり、妻子と、
近くの妻方の実家にしばらく転がり込みました。

「きっと幸せにします。」
そう豪語して義父に結婚の許しを乞うたあの日。
あれから10年!会社は倒産、嫁さんは大恥。

私は、まるで叱られて縮小していくマスオさんのように
だんだん縮んでいってしまいました。

私の居住範囲は畳1枚。
いつまでも甘えているわけにはいかず、単身自宅のマンションに
戻ったのです。

そして迎えた誕生日。

朝はいつものように会社に出勤。
早々に、帰る電車の中で、ひょっとしたら妻子の笑顔が
まっているんじゃないか?

淡い期待を持ちながら玄関の前に着いた。
手に汗を握りながら玄関のノブを回した。
力いっぱいの笑顔で「ただいま~」。
そう言って玄関に入ったんです。

が、しかし、待っていたのは漆黒の闇、恐ろしいほどの静寂、
いや、恐ろしいほどのカエルの合唱でした。
(目の前に田んぼがあって、都会育ちの私にはこのカエルの歌に
慣れず、新婚当時は悩まされました。
そう、あのキカイダーのギルの笛の音のような感じ、)

それは別に関係ないんですが、とにかく私はひとりぼっちでした。
しかたがないので、帰りにローソンで買ってきた鮭弁を食べ、
その後ささやかにお誕生会をしたんです。

たった一人で。

これまたローソンで買った小さなバターケーキ。
誕生日用のキャンドルが無かったんで、仏壇用のローソクを立て、
両手を合わせてからおいしくいただきました。

「ハッピバースデーわたし、ハッピバースデーわたし」

そう歌いながら、美しく輝く月を眺めていました。
月はやさしく私に語りかけてくれる。

「ちょっとみじめすぎない?あ・な・た」

感傷に浸っていた時、突如携帯が鳴り響いた。
ひょっとして、妻がお祝いを?やはり忘れてはいなかったんだ!

そう思いながら急いで電話にでました。
やさしいカナリアのような、黄色い声を期待していると、

「おう、俺!」・・・・

電話から聞こえてきたのは、
野太いクマのような、茶色い声でした。

「誕生日おめでとう」、

私の目に映る美しい月は、静寂な海に浮かぶように、
だんだん歪んでいきました。

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