最後の社員旅行

この会社には小粋な保養所がありました。

在職中に何度か皆で宿泊をしたことがあり、結構古めかしい建物で
したが、まぁ気に入ってました。
そこで、皆が散りじりになる前に、ひとつ盛大に宿泊旅行をしようじゃ
ないかということに決定したのです。

そして、当日は現地集合ということになっていたのですが、なんと
不幸はかさなるもんで、その数日前に祖母が亡くなったのです。
当日はお葬式だったのですが、せっかくだったのでそのまま、喪服姿
で保養所に向かいました。

晴れやかな最後の集いに、ただひとり黒いネクタイの男。
周囲の高揚した雰囲気に、ただ浮かび上がっておりました。

今の辛さを忘れて酒を飲み愉快に騒ぐ者もおれば、ただひたすら
転職活動の話をしては深くため息をつく者もいました。
まぁ、最後は酒もまわり、陽気にピンポンなどして堪能しておりました。
かくいう私もしばし倒産のことは忘れ、将棋にピンポンにカラオケと楽し
みました。

ただ、一足先に見切りをつけて、転職活動をし、転職先が決まっている
人は、なんとなく上層部の態度が厳しいような気がしました。

次の日の朝、二日酔いでへべれけにもかかわらず、気分は晴れやか
でした。

タクシーを呼んで、数人ずつ乗っていきます。
別れる際、皆明るく前向きな声を出して、別れの挨拶をしていきます。
これから転職活動の厳しい大海原へと、立ち向かっていくことになるの
ですが、誰もそんなことは、顔に出さない。

まさにつわもの達ばかりでした。

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